24人のビリー・ミリガン 早川書房 上1500円 下1500円
著者:ダニエル・キイス
1927年ニューヨークに生まれる。
心理学を学んだ後、雑誌編集等の仕事を経てオハイオ大学で英語と創作を教える傍ら、多重人格についてフィールド・ワークをすする。
1959年「アルジャーノンに花束を」でヒューゴー賞を受賞。1966年にはこれを長編化したものでネビュラ賞を受賞。
P335 解説 香山リカ
本書には、ビリー・ミリガンの多重人格を通して、アメリカの近代精神医学がもたらした輝かしいふたつの成果が掲げられている。
(略)
そのひとつめの成果とは、精神分析である。表面に現れた現象や症状を精神力学的に分析する、というこの手法に従って、鑑定医ジョージ・ハーディングは、ビリー・ミリガンの幼児体験や家族関係を完璧なまでに調査した。そして、人格の解体の原因は母親との分離不安と養父による児童期の虐待にある、との解釈を行っている。
また、もうひとつの成果、操作的な診断基準の活用による診断は、後にビリーの治療が行われることに立った州立ライマ病院の検討会のメンバーがまとめて記載している。その診断基準とは、本文にはDSM−Uと略号で多く登場するものだが、正式には“アメリカ精神医学会の『精神障害の分類と診断の手引き』”と呼ばれている。この比較的、新しい分類法の最大の特徴は、それが“同じ患者を同時に診察した医師が同じ結論(診断)に達するように”作成されている点にある。幼児期の外傷体験が無意識にどう影響するか、などの精神力動的な解釈は、ここでは極力、排除され、あくまでその時点での症状の記述が重視される。
(略)
精神分析と操作的診断基準。
たしかに、どちらの見地からも、ビリーは多重人格と診断された。だから、どちらの方法を採用したって大差はない、という印象を持つかもしれない。しかし、片方は無意識の中の動きを、もう片方は目に見える客観的な症状のみを扱う、とういうようにふたつは全く相反した
理念を基にしているのだ。ビリーをこの両方の眼鏡で見ているという事態から近代の(とくにアメリカの)精神医学が内包している矛盾、というものを感じずにはいられない。