記憶を消す子供たち 草思社2300円
著者:レノア・テア
米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校の精神医学臨床教授。
P331 訳者あとがき
幼い子どもは激しい恐怖や無力感、苦痛を体験すると、精神に傷を負う。これをトラウマというが、そうしたトラウマの記憶がすっぽり抜け落ちて、忘れられてしまうことがある。最近、アメリカでは、心理療法や精神分析を受けていて、そうした児童虐待の記憶を取り戻し、虐待した親や牧師などを相手どって裁判を起こす人たちが増えているという。しかし、その記憶は本物なのか、セラピストなどの誘導を受けた思い込みではないのかという反論もある。なかには、訴えられた父親自身が、子供たちを相手に黒魔術の儀式を施し、虐待したと思い込んで自白して有罪になった後、供述を翻して、あれはマインドコントロールの結果だと言いだすという事例もあった。よみがえった記憶は偽か、本物か、専門家の間でも論争になっているようだ。
本書の著者は、カリフォルニア大学ラングレイ・ポーター精神医学研究所教授で、トラウマと記憶を専門に研究している。また、クリニックを開いて実際にトラウマを負った子供たちの治療にもあたっている。この本には、脳と記憶の仕組み、トラウマの記憶はなぜ埋もれてしまうのか、その記憶がどんなふうによみがえるのか、よみがえった記憶が本物であって偽ではないということは、どんなふうに確かめられるのかが、七つの実例をあげて書かれている。この七つの事件というのか事例が、実にミステリー小説顔負けである。