子どものトラウマ 講談社現代新書640円
著者:西沢 哲 にしざわさとる
1957年神戸市生まれ。
大阪大学人間科学部助教授。
虐待などでトラウマを受けた子どもの心理臨床活動を行っている。
P186
たしかにアメリカほどの発生頻度ではないかもしれないが、子どもの虐待は日本でも決して例外的な現象ではないと断言できる。また、公的な機関からは虐待を受けてきたのだと認識されていなくても、実際にさまざまな虐待を受けている子どもがいかに多いかは、トラウマという問題意識を持って子どもの福祉に関わっていればすぐに実感できることである。たとえば「養護がかけている」ために養護施設で生活している子どもたちの多くは、虐待をはじめとするさまざまなトラウマを抱えたまま、ぼろぼろになった心のまま生活している。
さらに、虐待やトラウマの問題に出会うのは子どもの領域においてだけではない。さまざまな心理的、精神的な問題を抱えて相談機関を訪れる大人たちの言葉に耳を傾けたならば、いかに多くの人が虐待などによるトラウマを抱えているかが認識されるだろう。
トラウマは「見たくない目」には見えないものである。家族神話はトラウマに目隠しをしてしまう最大の原因だと思う。「家族は愛情に満ちた信頼できるもの」であってほしいという思いは、誰にでもある当然の願いであるし、そういう信頼に値する家族が大半であることも事実だろう。しかし、そうでない家族が例外的なものでないこともまた事実なのである。家族神話から脱し、純粋な目で子どもや家族の姿を見ることができるようになったとき、子どもの虐待の実態が見えてくる。