子どものトラウマと心のケア 誠信書房2100

 

編者:藤森和美 ふじもりかずみ

1957年生まれ。

聖マリアンナ医学研究所カウンセリング部部長。

 

PE はじめに

 私が子どものトラウマを考えるとき、「少年非行」の問題が常に心にあった。自分自身の臨床フィールドのほとんどであった大学病院の精神科ではまず出会うことのない、少年非行に関心を持ち始めたことには、あるきっかけがあった。それは、函館在住期間に函館家庭裁判所の調査官たちとの月に一回の勉強会に参加したことだ。この経験は、私の臨床経験のなかで、何よりの大きな収穫であった。提出された事例研究から、非行少年のなかに想像を絶する虐待体験、長期にわたり不遇な生活環境におかれていた子どもがいることを改めて知らされた。その生活を抜け出す力を持たない子どもたちの必死の抵抗が、シンナーや覚醒剤の乱用、時には売春、さらには重大犯罪につながるという現実は、自分の予想をはるかに超えていた。トラウマを非行の事実とは別のものとして考えても、彼らのさららされた状況に対しては、向けどころがない強い憤りと大きな無力感が繰り返し襲ってきた。その結果、心の中で人間に対する信頼と不信は行きつ戻りつしながら、善きにつけ悪しきにつけ、ある種のエネルギーとなって私を突き動かすことになった。

 

P97 加害行動とトラウマ

 最後に加害者になってしまっている子どもたちのケアについて述べる。これは被害者の回復過程に関する本であるが、ジュディス・ハーマンの「心的外傷と回復」には、「心的外傷の体験の核は、無力化と、他者からの離脱、断絶にある。だから、回復の過程の核心は、エンパワーメントと他者との絆の結びつきを回復することにある」と書かれている。同様のことが、加害者の回復過程にも当てはまると筆者は考えている。ただし、加害者の場合、前述の誤ったパワーの使い方をまずディス・エンパワーメントし、その後で、あるいは同時期に、適切なエンパワーをしていくという二段構えが必要になる。