ローラ、叫んでごらん サイマル出版会1500円
著者:リチャード・ダンブロジオ
米国セント・ビンセント補導施設臨床医長、ワールド・メディカル・センター精神衛生部長。
P1 都留重人読書感想
精神の安定を欠いた両親による幼児虐待の例は、最近の日本では決して少なくない。アメリカでは以前からもっと多いようだ。ローラはそうした犠牲者の一人であり、本書は、ローラの心身更生に献身した一臨床精神医による実話的物語である。いったん巻を開いたら、一気に読破せずにはやまれぬ感動が読者をとらえる。
ローラは、一歳半の時、生きながら両親の手によりフライパンで焼かれる。皮膚の半分が干しブドウのように焼けただれてしまった彼女には、まず死とのたたかいがある。一命はどうやらとりとめるが、彼女の顔半分はやけどでひきつり、背骨は老女のように曲がったまま、目は斜視で、脚はたえず静脈瘤からの苦痛を訴え、泣く以外に言葉を知らない。両親はふたりとも精神病院に入り、ローラはまもなくカトリックの慈善施設に収容される。そして、生ける屍のようにして彼女が十二歳を迎えたとき、本書の著者ダンブロジオとめぐり合うのだ。
イタリアの移民の子としてニューヨークの貧民窟に育ったこの精神科医は、「隣人を愛することは、人類を全体として愛することよりも難しい」という格言を想起しながら、ローラという生命を人間並みのものにするという課題と取り組むことを決意する。
忍耐だけを唯一の武器として、六年間をそのために打ち込んだダンブロジオを、身をもっての行動で激励したのは施設内の修道女たちであった。彼女らは、「芸術家のような感受性と女マキャベリのような手腕と、そしてまさに聖人のような謙虚さを備えた、ぎりぎりの世界に生きる人間」であった、と彼は言う。
外貌よりもまず心をいやすことに専心した彼は、三年目にはついにローラの自閉症を克服し、十五歳にしてはじめて言葉を語らせることに成功する。精神病院を出てきた両親は、それぞれにローラに会いにくるが、彼女は本能的に拒否する。そして、看護婦になりたいと言う。外貌をいやす手術が次々と試みられて成功し、高校も無事卒業し、十八歳になって施設を出ることになったローラは、最後にダンブロジオを抱きしめ、かつての言葉に絶した不幸の痕跡を何一つのこさずに、修道女たちに「さようなら」をする。
科学としての精神病学の片鱗が随所にのぞかれるが、これは何よりも、幼児虐待社会への痛切な告発であり、打ちひしがれた一つの小さな生命を育てあげた人間誠意の記録である。