トラウマ  講談社1942円

 

著者:ディビッド・マス

1943年米国フロリダ州生まれ。

英国バーミンガム・ナフィールド病院PTSD科部長。

 

P9 はじめに

 私がこのセルフヘルプ(自助)のための本を書いたのは、心的外傷後ストレス障害(post-traumatic-stress-disorder PTSD)に人知れず苦しんでいる多くの人と、本書を通してお話がしたかったからである。もしかしたら、PTSDという名前すら耳にするのははじめてという人がほとんどかもしれない。しかし、自分がどこかおかしいと感じ、これから私が述べるような症状があることに気付いている人もいることだろう。

 とても対処しきれないような心の傷となる体験(トラウマ体験)をした後に起こる病態を心的外傷後ストレス傷害、PTSDと呼ぶ。たとえば、伴侶や親兄弟と死別すると、死者を悼んで悲嘆に暮れ、その後の人生に大きな影響が出る場合もあるだろう。しかしこれからお話する出来事とは、このような、人間が通常に経験する出来事の範囲を超えている。強烈な恐れや恐怖感、狼狽、無力感を伴い、きびしい苦しみのうちに体験する出来事をいうのである。

 

P285 解説

 一般的には、強いストレスを体験した結果、周りで起きることにひじょうに敏感でイライラしやすくなったり、眠れなくなったり、悲惨な体験を思い出させるようなことがらを避けたりするようになる。しかしそれでも、そのイヤな体験がくり返し思い出されて苦しむことになる。フラッシュバックと呼ばれる現象だ。動悸や発汗などの自律神経症状がみられることもある。子どもの場合には、暴力的になったり頭痛や胃痛を訴えたりするなど、大人と違った反応を示すことがある。

 一見何も変化がないように見えるが、実際は感情がマヒして心が動かなくなっていることもある。本書で「精神的無感覚」や「情緒的知覚マヒ」と言われている状態だ。